仕事が嫌になったからブロードウェイでミュージカル観てくる

映像業界経験のある事務職員。観劇への情熱だけが残っています。

NTLive「イェルマ」+トークイベント(プレミアボックスシートも体験)

鑑賞日:2018年9月19日

映画館:TOHOシネマズ日本橋

「ドクター・フー」のコンパニオン、ローズ役で有名なビリー・パイパーが熱演。今回ナショナルシアターライブで上映の「イェルマ」はスペインの詩人/劇作家フェデリコ・ガルシーア・ロルカの脚本を、演出のサイモン・ストーンが現代に置き換えて翻案したものだそう。2017年オリヴィエ賞最優秀リバイバル賞他受賞。

【あらすじ】ブログを書いて収入を得ている「彼女」はパートナーのジョンと一緒に住んでいる。30代を過ぎて子供を望むがなかなか思うようにいかない。しかし子供を望まない姉が妊娠をしたと聞いて嫉妬の思いに苦しめられ…。

【感想】子どもが欲しくて欲しくてたまらなくて、それがないと他の何があっても幸せになれず、精神が崩壊していく人の話。妊娠を望む望まないに関わらず、女性はあのくらいの年齢になると、自分の中に生まれるひそかな狂気を持て余すことが多いのではないかと思いました。老いていくことに対する不安、元彼を未練がましく思い出したりする心の揺れなどいちいちリアル。

旦那はかなり忍耐強く彼女に付き合って、最後まで心にグッとくる言葉をはく。正直、もっと早く去ってもいいくらい。

かなり細切れに区切られてテロップが頻繁に入るのは、今のテレビドラマっぽいなと思いました。

ハッピーエンドではないけれど、最後は不思議なカタルシスがある作品でした。いつも思うことですが、あんな激しい演技をしていた人が、カーテンコールでは笑顔で挨拶するギャップが面白い。

終映後の小川絵梨子さん、谷賢一さんのトークイベントでは、エンディングが原作から変わったこと、俳優とのワークショップを経て脚本が作られたこと、場面転換や舞台装置のことなど、ライターさんや作り手側からの情報・感想を聞くことができて、興味深かったです。

ちなみに今回は初めてプレミアボックスシートを体験。想像以上に快適でした。

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鑑賞中に隣の席が気になるタイプの人にはおすすめです。個室感大。

 

 ビリー・パイパーの代表作「ドクター・フー」は、第一話がこちらで無料で観られます↓

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三大悲劇集 血の婚礼 他二篇 (岩波文庫)

三大悲劇集 血の婚礼 他二篇 (岩波文庫)

 

 

 

ケリー・オハラ出演「コジ・ファン・トゥッテ」(METライブビューイング)

鑑賞日:2018年9月17日

映画館:東京劇場

 「王様と私」で渡辺謙と共演中のケリー・オハラが出演したオペラ「コジ・ファン・トゥッテ」。時代設定が現代に変更され、サーカス(グレイテスト・ショーマン風)や遊園地のセットも絡めた新演出でした。2018年3月31日上演の録画。

ある劇評によると、メトロポリタン歌劇場のオペラは、いつも半分ブロードウェイミュージカル風だそうで、私のようなミュージカル好きオペラ初心者にはちょうどよかったです。

【あらすじ】舞台は1950年代のコニーアイランド。フィオルディリージとドラベッラの姉妹は、それぞれ青年士官のグリエルモ、フェルランドと恋人同士だった。ある日、「女性は必ず心変わりをする」と主張する哲学者ドン・アルフォンソと2人の青年は、自分達の恋人が貞節を守るか賭けをすることになったのだが…。(あらすじ終わり)

18世紀末のナポリという原作の設定が1950年代に変更されていて、ぐっと身近な雰囲気。1幕ではシンプルなニットにタイトスカートという職場にもいそうな格好の姉妹が、オペラを朗々と歌うのが新鮮でした。

幕間のインタビューでも指摘されているとおり、設定に多少無理があって、1幕は観ながら居心地の悪さを感じました。哲学者のアルフォンソはなんで若い恋人達の仲を裂こうとするんだろう、とか、青年士官達が自分の恋人の姉(または妹)を口説くモチベーションは?など色々とはてなマークが頭に浮かびました。

とても心に響いたのが、融通がきかない感じの姉フィオルディリージが2幕で歌うアリア「わが恋人よ、許してください」。必死に婚約者を裏切るまいとする気持ちが伝わってきました。遊園地の熱気球で上がっていく演出も幻想的。

一方妹のドラベッラは比較的簡単に他の男に落ちてしまいます。自分の恋人が裏切ったと知って怒りに震える青年グリエルモ(そもそもこんな嘘を仕掛ける方が悪いのに)が、それでも恋人を愛することをやめられない、と歌うシーンも良かったです。

ケリー・オハラは女中のデスピーナ役。他のキャストに比べて現代劇風なのが良いアクセントになっていました。彼女の仮装も楽しく、最後の結婚式の公証人の衣装はグリーンで「夏の夜の夢」のパックのような出で立ち。狂言回しの役ですしね。

全編通して突っ込みたくなるところは多々あるのですが、最後の大団円では「相手を美化するのではなく、弱さも知った上で結婚ってことかもね」となんだか納得させられてしまいました。何よりもモーツァルトの素晴らしい音楽を堪能できて、フィナーレは満足感で一杯でした。

モーツァルトを聴くと免疫力が高まるとか、野菜がよく育つとか言われますが、3時間半どっぷり聴き続けた結果、確かに心身がすっきりして元気になりました。前回のプッチーニではなかったことです。モーツァルト恐るべし。

本編とは関係ありませんが、幕間でメトロポリタン歌劇場の新音楽監督ヤニック・ネゼ=セガンが紹介されるコーナーがありました。オケ側からみた彼の指揮の動画が流れたのですが、鬼気迫るものがあり、これまた貴重なものが見られました。

 

 



 

男装のジュリー・アンドリュース:ビクター/ビクトリア

サウンド・オブ・ミュージック」「メリー・ポピンズ」のジュリー・アンドリュースが、なかなか艶っぽく"女装した男性と偽る女性"を演じているのが、この1982年制作映画「ビクター/ビクトリア」。 DVDを買って観ました。演出はジュリーの2人目の夫、ブレイク・エドワーズ

ジュリーは95年、同作舞台版でブロードウェイに復帰しますが、3年後に喉の手術が原因で歌唱力を失ってしまいます。彼女が4オクターブの美声を披露した、最後の演目と言えるでしょう。

【あらすじ】1934年のパリ。キャバレー芸人の中年ゲイ、トディは若い愛人に邪険にされ、店もクビになる。売れないソプラノ歌手ビクトリアもまた、空腹のあまり、レストランで無銭飲食を企むまでに追い詰められていた。

トディはビクトリアをポーランド出身の「女装した男性」ビクター伯爵として売り出すことを思いつく。瞬く間にビクターはパリのスターとなるが、ショーを観ていたクラブのオーナー、キングがビクターに恋をしてしまい…。(あらすじ終わり)

サウンド・オブ・ミュージック」であのピュアなマリアを演じたジュリー・アンドリュースが、「肉団子のために(ホテル支配人と)寝る」と言ったり、レストランでゴキブリをサラダに入れて店にいちゃもんをつけたりします。しかし彼女の上品さがどうしても残ってしまって、もっと振り切れたところを見たい気もしました。

ジュリーの男装はとても様になっていて、「ル・ジャズ・ホット」をはじめとするショーシーンは見応えあり。入浴シーンで見せる背中には筋肉が程よくついていて、かっこいいです。

ロバート・プレストン演じるゲイのトディには母親のような包容力が感じられました。ビクトリアとトディが一緒に歌うシーンは息もぴったり。ホテルでの2人のやりとりも、家族のようなあたたかさがあって、ほっこりします。

ビクターに一目惚れするキング・マーシャルは、ポチャッとしたクラーク・ゲーブルみたいな風貌。ファニー・ガールといい、少し前のミュージカルは、クラーク・ゲーブル風の男性がよく出てきますね。

最後に、ビクターが実は女だとバレそうになった時にトディが一肌脱ぐところは、コミカルかつ心温まるシーンではありますが、やはりジュリー・アンドリュースが上品すぎる終わり方になっていて、もうひと掘り下げあってもいいのにと思いました。演出をした旦那さんが遠慮したのかな、と想像してしまいます。

ジュリー・アンドリュースは現在82歳。自身で演出した舞台版マイフェアレディがオーストラリアで上演されたりして(ブロードウェイ上演中のものとは別バージョン)、お元気のようです。

 

 

バーブラ・ストライサンドの出世作「ファニーガール」50周年

映画「ファニー・ガール」は今から50年前の1868年9月に公開されました。アメリカでは50周年記念上映が企画されたり、CDが発売されたり、バーブラ・ストライサンドのそっくりさんがツアーをしたりしているようです(ご本人は76歳なので、さすがにツアーはきついのでしょうか)。

小学生の頃テレビで彼女の歌声を聴いてから、ずっと気になっていた映画でしたが、この機会にちゃんと観ようとDVDを購入。2時間半の大作でした。

【あらすじ】夫が出所する日、誰もいない劇場で自分の半生を振り返る喜劇女優ファニー・ブライス。ーー最初は端役で舞台上でも失敗続きだったファニー。ところが楽屋を訪れたギャンブラーのニックに「君はいずれ大スターになる」と言われ…。(あらすじ終わり) 

バーブラ・ストライサンドが圧倒的な歌唱力で唯一無二の魅力を撒き散らす映画です。あのパワーはどこから来るのでしょう。屈託のない笑顔もとてもチャーミング。彼女は「いわゆる美人ではない」とよく言われますが、私にはとても綺麗に見えました。劇中歌は「People」「パレードに雨を降らせないで」などどれも素晴らしく、特に最後の「My Man」が圧巻です。

オマル・シャリーフが演じるニックは、クラーク・ゲーブルみたいな雰囲気。プロポーズ後に結婚資金をポーカーで稼ぐ、という一番ひっかかったらいけないタイプの男です。加えて、借金を抱えても妻に助けてもらうことは嫌だというから、めんどくさい。でもオマルは最後まで(刑務所から出てきた時でさえ)、パリッとした服装と髪型で、スマートに演じていました。彼自身、ギャンブル好きで馬主でもあったそうなので、はまり役と言えるでしょう。

公開当初、ユダヤ人とアラブ人がキスをする、という点が物議を醸したそうで、以前も書きましたが、オマルはエジプト国籍を剥奪されそうになったとか。

オマル・シャリーフは2015年に心臓発作のため亡くなっています)

主人公のモデルになったファニー・ブライス(Fanny Brice)は1920年代に舞台で活躍した喜劇女優で、30年代にはラジオのBaby Snooksという役で人気を博します。映画でも、ファニーが赤ちゃん服を着て出てきます。

実際のファニー・ブライスは3度結婚していて、ニックは2番目の夫だそうです。そして映画とは違って、ニックは結婚前にも刑務所に入り、ファニーに金を無心していたので、彼女は大変な損失を被ったようです。あれでも映画は随分美化されていたんですね。

もともとブロードウェイの舞台だったこの作品。昨年までイギリスのウエストエンドでリバイバル上演されていて好評だったようです。イギリスではその舞台の録画が、10月に映画館で観られるとか。羨ましい。

 ちなみに、ファニー・レディという続編もあるようです。

 

 

 

仏カレーの難民キャンプ解体を描く:THE JUNGLE

エストエンドで上演中の社会派舞台「THE JUNGLE」スカイライトスティーブン・ダルドリージャスティン・マーティンと共同で演出に携わっています。ツイッターで実際に観た人達のコメントが最高級の賛辞ばかりで、大変気になる作品です。2018年サウスバンク・スカイアーツ賞シアター部門受賞。

シリア内戦で祖国を追われ、イギリスへ渡ることを夢見る人々が集まった、フランス・カレーの難民キャンプ「ジャングル」。一時は1万人近くの難民が集まっていましたが、2016年10月に撤去されました。

脚本のジョー・マーフィ&ジョー・ロバートソンは、7ヶ月間ジャングルで生活した経験をもとにこの作品を執筆。舞台化にあたり、現地で出会った人々と何度もワークショップを重ねたとのこと。ジャングルには25もの国籍の人々がいて、多くの言語が話され、世界の縮図のようだったといいます。教会やモスク、レストランやカフェもあったそうです。

物語はイギリス上陸を目指す1人の少年と、イギリスから来たボランティア達との交流を軸に進んでいくようです。劇場では、アフガン・レストランを模したテーブル席もあって、甘いチャイがふるまわれます。観客はジャングルというコミュニティの一員として、その創生から解体を経験することになるのだとか。

「THE JUNGLE」はロンドンのPlayhouse Theatreで11月3日まで。12月4日からはオフ・ブロードウェイでの上演も決定しています(1月13日まで)。冬休みにニューヨークまで観に行けるか…。

 

脚本は来年3月発売予定で、現在予約受付中。

The Jungle (Faber Drama)

The Jungle (Faber Drama)

 

 

 

 

韓国からの逆輸入ミュージカル「深夜食堂」

深夜食堂」といえば、深夜枠なのに映画並みのクオリティで話題になった小林薫主演のTBSドラマ。このしみじみした静かなドラマが、なんと10月にミュージカルになって上演されます。

韓国で数年前にミュージカル化されたそうで、今回の舞台はその日本語翻訳版。逆輸入された形ですね。マスター役は「ミス・サイゴン」でエンジニアを演じた筧利夫。ゲイバーのママ小寿々は「レ・ミゼラブル」マリウスの田村良太、お茶漬けシスターズに元宝塚雪組トップコンビの壮一帆と愛加あゆ他と、実力派が揃っている様子。音楽もピアノ、ギター、パーカッション、チェロの小編成ながら生演奏のようです。

韓国は近年、創作ミュージカルの発展が目覚ましいようで、ソウルの大学路(テハンノ)では、ミュージカル・演劇の演目が150以上あるんだとか。

あの「嫌われ松子の一生」のミュージカルも、今年の1月までソウルで上演されていたそうです。観たかった!

ミュージカル「深夜食堂」は10月26日〜11月11日、新宿シアターサンモールにて。

 

 

深夜食堂 (ディレクターズカット版) [DVD]

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トニー賞ミュージカルを支える音響デザイナー:原田海さん

7月にThe Band's Visitを観たとき、あまりにバンドをはじめ全ての音がバチッと決まっていたのに感激して、最初は、ミュージシャンが素晴らしいんだなと思っていたのですが(もちろんそうですが)、その後影の立役者である音響デザイナー原田海(Kai Harada)さんの存在を知りました。

原田さんは、今年のトニー賞で、ミュージカル音響デザイン賞を受賞しています。上の記事の中で、The Band's Visitプロデューサーの「音響は劇場での親密さを保つために不可欠」という言葉が紹介されているのですが、本当に心から頷く思いで、あの居心地のよい空間は原田さんが作り出していたのだな、と改めて感服しました。

たとえば、アクセントの強い英語を話す登場人物の会話を、観客が舞台上で聞いているかのように聴こえるようにしたり(聴き取りにくいために、観客が前のめりになることも想定済み)、コオロギ、鳥、風の音を組み合わせて1日の時間帯を表現したり、ラジオの流れるシーンでは、実際に音を出しているのは舞台に設置したスピーカーでも、観客にはラジオから音が流れているように聞こえるようにしたりと、おそろしく細かな工夫がされているそうです。

原田さんは父親が日本人、母親がアメリカ人のハーフ。お父様は、ジュリアード音楽大学に通うためにアメリカに来たのだとか。来日経験も豊富で、劇団四季ウィキッドにも携わったそうです。

最近のお仕事としては、7月からブロードウェイ上演中のHead Over Heelsや、8月31日にマサチューセッツ州でプレビュー公演が始まったばかりのThe Black Clownでも音響デザインを担当。

この作品は、黒人文芸復興の指導者ラングストン・ヒューズの同名の詩が原案で、オペラ、ジャズ、黒人霊歌などを融合させたミュージカルだそう。また腕の見せ所ですね。