仕事が嫌になったからブロードウェイでミュージカル観てくる

Nothing is as beautiful as something that you don’t expect.

マノン・レスコー(METライブビューイング)

鑑賞日:2018年8月29日

映画館:東京劇場

METライブビューイング初体験の演目は、ロジャース&ハマースタインにも影響を与えているプッチーニの「マノン・レスコー」。ニューヨークのメトロポリタン歌劇場で上演されたオペラの録画を映画館で観られるというもの。時代設定を1940年代のパリに移した新演出でした。鑑賞料金は3,100円。

【あらすじ】18歳の美しいマノンは、親の意向で修道女になることが決まっていた。うぶな青年デ・グリューは彼女に一目惚れし、2人は駆け落ちをする。

3年後、デ・グリューとの貧しい生活に耐えられなかったマノンは金持ち老人ジェロンテの愛人となっている。しかし、何不自由ない暮らしの中でかつての若い恋人デ・グリューが恋しくなり…。(あらすじ終わり)

【感想】まあ、マノンが勝手な女なのですが、彼女を一途に思うデ・グリューがあまりに健気で感情移入してしまいました。演じるロベルト・アラーニャは急遽本番の2週間前に代役を引き受けたとのこと。青年というよりコロンボ似のおじさん?という風貌ですが、これが憎めないキャラ。幕間のインタビューで「ペース配分が課題だが、目の前に相手役がいるともう気持ちが入り込んでしまって、考えられなくなる」と言っているとおり、冒頭の「一緒に逃げよう」と歌うところからパワー全開。涙腺を刺激する歌声です。そして終始なんとも言えない表情でマノンを見つめている。ニューヨークタイムズの劇評でも賞賛されていました。

このオペラは元々、アベ・プレヴォの小説が原案となっています。フランス・ロマン主義クルチザンヌ(高級娼婦)像の原点とされていて「椿姫」も影響を受けているそうです。

娼婦の肖像―ロマン主義的クルチザンヌの系譜

娼婦の肖像―ロマン主義的クルチザンヌの系譜

 

 

マノン・レスコー」の今後の東劇での上映スケジュールは9月19日(水)〜21日(金)と10月2日(9月は午前11時、10/2は18時半開演)。HPがちょっとわかりにくいのですが、チケットはこちらで日付を指定すると買えます。

 

 

200人の市民が参加するシェイクスピア:ペリクリーズ(ナショナルシアター)

8月26日~28日にロンドンのナショナルシアターで上演されるシェイクスピア「ペリクリーズ」。200人を超えるロンドン市民と6人のプロの俳優が作り出すパブリック・アクトとして注目を集めています。

【あらすじ】タイアの王子ペリクリーズは自分が恵まれていることをわかっていなかった。自らの向こう見ずな行動によって命の危険にさらされた彼は、祖国を捨てて海に出る。気まぐれな運命に導かれ、見知らぬ人々の善意に助けられながら、一つの岸から次の岸へと旅を続ける。そして地の果てまでたどりついて初めて、故郷に帰るとはどういう事なのか悟るのだった。(あらすじ終わり)

演出はエミリー・リン。地域活動(community work)としての演劇、プロの俳優でない市民と協働して舞台を作ることを専門にしている演出家のようです。照明を「エンジェルス・イン・アメリカ」「夜中に犬に起こった奇妙な事件」のポール・コンスタブルが担当しています。

音楽を担当しているジム・フォーチュンはインタビューの中で、この舞台は多文化と多様性(ダイバーシティ)の街ロンドンを祝うお祭りのようなものだと言っています。

京都大学の桑山智成先生による、ペリクリーズの祝祭性に関する論文も見つけたので、ここに貼り付けておきます。

『ペリクリーズ』における祝祭性の創造 : 劇場の生命感と作者の創作行為

 

 

 

現代のヨブ記をシャドーキャストの手話と:I Was Most Alive with You

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「キスへのプレリュード」の脚本家で、ミュージカル「アメリ」も手がけたクレイグ・ルーカスの舞台が、オフブロードウェイでプレビュー公演中です。1つの役につき2人の俳優がそれぞれ英語と手話で演じるそうです。

【あらすじ】アッシュは恵まれた日々を送っていた。自分の家族について感謝して過ごしていたし、自分の依存症や、息子が耳が不自由なことについても感謝していた。しかし運命の日に、彼から全てが取り去られる。自分と自分の愛する者を暗闇に突き落とす試練を、アッシュはどうやって究極の恵みだと捉えることができるのか?(あらすじ終わり)

この作品は旧約聖書ヨブ記から着想を得ています。主人公の名前Ash(=灰)も、ヨブが灰の中を転げ回って祈ったところからつけられたのかもしれません。公式サイトの記事では、作者自身のアルコールや薬物への依存についても触れられています。

冒頭で触れたクレイグ・ルーカスの代表作「キスへのプレリュード」は、92年のメグ・ライアン主演映画(ブロードウェイ舞台の映画化)。

新婚の花嫁の魂と老人の魂が入れ替わってしまう。夫は老人の姿をした妻を愛せるか、というお話です。若い頃に観たとき「外見ではなく人格で愛せるか」というテーマに我が意を得たりと感じたのを覚えています。ルーカスさんは人間の本質的なところを真摯に見据えている方なのだなと思います。

「I Was Most Alive with You」の本公演は2018年9月24日からMain Stage Theatreにて。

 

 

My Fair Ladyの新イライザ役、「ジプシー」のローラ・ベナンティに

現在ブロードウェイのリンカーン・センターで上演されているMy Fair Lady。イライザ役のローレン・アンブローズが10月21日で降板になるそうです。理由はテレビシリーズ出演のため。

新しいイライザ役のローラ・ベナンティはどんな人かというと、2008年に「ジプシー」でトニー賞助演女優賞を受賞した実力派。

あどけなさの残るアンブローズに比べて、貫禄のあるローラ・ベナンティ。見事な歌唱力を持っているので、「言葉はもう沢山、愛してるなら態度で示して!」とフレディに詰め寄るShow Meや、終盤ヒギンズ教授に逆襲するWithout Youなんかとても聴きごたえがありそう。より女性の強さを前面に押し出した演出になりそうです。

 

ジプシー [DVD]

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(こちらはナタリー・ウッド版)

 

MoMA(ニューヨーク近代美術館)

今回のニューヨーク旅行で、舞台以外で一番行って良かったのがMoMA。身体中の細胞が喜んでるような感覚を覚えました。

日本に来たら一枚でも長蛇の列が出来そうな絵画をゆっくり観られるのは至福のひとときですし、現代美術作品の一つ一つも面白くて、思わずクスリと笑いたくなる瞬間が何度かありました。まるで「何でもありなんだよ」と静かに語りかけられているような感じ。

メトロポリタン美術館ほど大き過ぎないのが、観劇の合間に行くのに丁度いいです。

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毛皮でできたカップ(笑)。


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全部出産シーンの写真。すごい迫力でした。


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ニューヨーク美術案内 (光文社新書)

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神経症ミュージカル「ニューロシス(Neurosis)」

オフ・ブロードウェイで気になっている作品をもう一つ。8月17日に上演を開始したばかりのミュージカル「Neurosis」

2人の男女が神経症を持ちながら恋に落ちる、という話のようです。劇中では神経症が擬人化されている模様。

オフィシャルサイトの簡単な説明はこんな感じです。"Neurosisは、幸せや恋を見つける物語。そして頭の中でずっと鳴り続ける小さな声とうまくやっていく方法を見つけるお話です"

neurosisは辞書だと「神経症」の意味ですが、頭の中の声、というからには幻聴のことなのかなと思います(あるいは、繰り返し襲ってくる不安な考えのことか)。

主人公のFrankが頭の中の声と和解する歌「You are my neurosis」がPlaybillで公開されています。

Dear Evan Hansenのおかげで神経症のミュージカルがブロードウェイで市民権を得た感がありますね。

脚本は大学で臨床心理学を専攻していたアラン・ライス。「カンフー・パンダ」のケーブルテレビ版脚本も担当していた人のようです。

Frank役のケビン・ザックは、クリントン大統領夫妻を題材にしたミュージカル「Clinton:The Musical」でLucille Lortel賞の主演男優賞にノミネートされた俳優さん。なんと同じ劇場で上演中のR.R.R.E.Dにも出演しているとか(タフ!)。

「Neurosis」上演はDR2 Theatreで10月20日まで。

2019年2月日本公開:メリー・ポピンズ・リターンズ

東急シアターオーブでの日本プロダクションも好評だったメリー・ポピンズ(私も2回観ました)。その後日談映画メリー・ポピンズ・リターンズ」が12月25日クリスマスにアメリカで公開されます。日本公開は2019年2月1日。

メリー・ポピンズ役はエミリーブラントプラダを着た悪魔Hulu で視聴可)で、アン・ハサウェイの先輩アシスタントだった人です。

他にもバンクス家の長男マイケルにベン・ウィショー(かっこよくなりすぎ)、点灯夫ジャックに「ハミルトン」のリン=マニュエル・ミラン、信託銀行の社長に英国王のスピーチ」のコリン・ファース、メリーの従姉妹トプシーにメリル・ストリープと、これでもかという豪華な顔ぶれ。

演出は映画版「シカゴ」のロブ・マーシャル彼は、今回の続編の時代設定を原作小説に近づけたといいます。

風にのってきたメアリー・ポピンズ (岩波少年文庫)

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もともとメリー・ポピンズはイギリスの作家パメラ・L・トラヴァースによる8冊の児童向けシリーズ小説で、時代設定は1930年代半ば頃でした。ところが1964年のジュリー・アンドリュース版映画が製作された際に時代設定が1910年に変更されています。あまり暗すぎない世界観にしたかったのでしょう。

マーシャルは「リターンズ」の時代を最初の映画の25年後、1935年にすることで、原作の空気をより忠実に再現したかったそうです(結果としてバンクス家の子ども達は大人になりました)。

一作目の映画は「お砂糖ひとさじ」「スーパーカリフラジリスティック〜」「2ペンスを鳩に」など名曲の宝庫ですが、今回の音楽担当は「天使にラブソングを」「ヘアスプレー」のマーク・シャイマンと、同じく「ヘアスプレー」のスコット・ウィットマン。新たな名曲に期待したいと思います。

 

メリーポピンズ スペシャル・エディション [DVD]

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【追記】新しいトレーラーが公開されたようです。前作と同じくアニメとの融合もあるようで楽しみ。