仕事が嫌になったからブロードウェイでミュージカル観てくる

Nothing is as beautiful as something that you don’t expect.

愛のレキシアター『ざ・びぎにんぐ・おぶ・らぶ』

鑑劇日:2019年3月10日

劇場:TBS赤坂ACTシアター

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レキシのファンなので、内容がイマイチよくわからないながらも、怖いもの見たさで行ってきました。これも一種のジュークボックス・ミュージカルと言えるのか…?

【あらすじ】

長年家に引きこもっている"織田こきん"。彼の唯一の楽しみは、歴史オタクのネットアイドル カオリコの動画を見てコメントを書き込むことだった。ある日、母親と引きこもりサポーターの明智と共に、テーマパーク"レキシーランド"に行く事になった こきん。そこで偶然、憧れのカオリコと対面することになるが…。

【以下、ネタバレを含む感想】

ショートコントをレキシのナンバーで繋げたような内容。親子愛とか、虚像と現実の自分とか、いくつかテーマはあるようなのですが、正直よくわからなかった。レキシの楽曲の力と、芸達者な役者さん達の力で成立しているような作品でした。

主役の山本耕史は生で初めて観ましたが、歌が本当に上手。聴かせます。引きこもりなのにダンスキレキレだし腕力もあるのがおかしい。八嶋智人の1人で場を盛り上げる力には感服。テレビで見ているだけではわからないものでした。藤井隆は「その頃〇〇は」の一言で笑いを取るのはさすが吉本と思ったし、高田聖子も芸達者。浦島りんこの歌も迫力でした。松岡茉優は、ネットアイドルの微妙な感じがはまっていました。佐藤流司義経ぴったり。殺陣もお見事。ダンサーさん達もキマってました。

笑えていいストレス発散になったし、稲穂を振りながら「狩りから稲作へ」を聞けたのもよかったのですが、あまりに内容がめちゃくちゃなので、誰にでも勧められるものじゃないかな、という感想。人によっては怒るんじゃないかな…。これが今後どんな風に変化していくんだろうという興味はあります。

一番印象に残ったシーンは、オール一休の分厚いコーラスでした。

 

ヴァージニアウルフなんかこわくない(NTL)

鑑賞日:2019年3月3日

映画館:ヒューマントラストシネマ有楽町

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【あらすじ】

歴史学者のジョージと大学総長の娘であるマーサは中年の夫婦。大学関係のパーティー後、すでに夜中の2時にもかかわらず、マーサは新任教授のニック夫婦を自宅に招いたという。若い2人の前で夫の無能さを嘆くマーサ。我慢の限界を超えたジョージは反撃に出るが…。

【以下、ネタバレを含む感想】

とにかく冒頭からマーサが酷い。モラハラ人格障害?と思える発言と態度で、父が大学の最高権力者であるがゆえに、誰も彼女を止められなかったのだな、という感じ。客人の前で夫のプライドを、これでもかというくらいにズタズタにして、あれを続けられたら鬱になってしまうのではないかと思った。後半は夫も負けじと執拗に仕返しをしていく。

野心家の新任教授ニックは、お笑い芸人のパックンに似てるな、と思いながら観ていたら、なんと「夜中に犬に起こった奇妙な出来事」のクリストファー。雰囲気が全く違うので気づかなかった。役者ですねえ。映画「ボブという名の猫」でも主演を務めているよう。

ニックの妻ハネーが典型的な「おつむの弱いブロンド娘」なのは、初演が50年前だからかなと思った。彼女の天然に救われる場面は多々あった(「バイオレ〜ンス」は最高)。

物語はあらぬ方向に進むので、「不条理劇なのか?劇場もハロルド・ピンター劇場だし」と思ったくらい、待てども待てども落としどころが見えてこない。すべては精神を病んだマーサの頭の中の出来事なのかと思う瞬間もあった。

最後の最後でようやく、夫婦の作り上げた虚構が夫の手によって破壊されて、不思議な静けさで終わった。今までのバトルが嘘のようにマーサをいたわるジョージ。

しかし、あんなに傷つけ合って、夫婦の絆が残っているものなのだろうか。現実なら、離婚や裁判沙汰になるのではないか。あの結末に至るまでに、あんな長時間の罵り合いが必要なのだろうかと思ったりもした。それとも、既婚者の皆さんは私の知らないこういった修羅場を経験されているんだろうか。観てよかったけど、他の人に勧めるかどうかは微妙だな、という感想。

不思議だったのは、3時間近く罵倒を聞かされて、思ったより負担に感じなかったこと。私は人の言い合いが嫌いで、テレビでも不穏なシーンはチャンネルを変えてしまうたちなのだけれど、帰路に清々しささえ感じていている自分に気づいて、戸惑った。緊張と弛緩の効果なのか。あるいは若夫婦が意外とリラックスしていて、ピリピリしていなかったからか。キツネにつままれたような、何とも奇妙な気持ちにさせられる舞台だった。

4月にシスカンパニー大竹しのぶ版が再演される予定だったが、演目が変更になったようで残念。段田安則がジョージで稲垣吾郎がニックとは、観てみたかった。

 

こちらはエリザベス・テイラー主演の映画版。

バージニア・ウルフなんかこわくない [DVD]

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王様と私(TOHOシネマズ日比谷プレミア上映)

鑑賞日:2019年2月22日

映画館:TOHOシネマズ日比谷

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(写真を撮り忘れたので、タイのイメージ画像。こんなシーンも出てきます)

子どもの頃、テレビでユル・ブリンナー版の映画を観たときは、デボラ・カー演じるアンナの美しさ聡明さ(と広がるスカート)に感銘を受けました。それ以来Shall We Danceは大好きな曲です。音楽はロジャース&ハマースタイン。タイでは、不敬罪にあたるという理由で、上映禁止なのだとか。

今回観たのは、ニューヨークのリンカーンセンターカンパニーの2018年ロンドン公演録画でした。

【あらすじ】

時は1860年代、アンナはシンガポール領事館からの依頼で、シャム国王の妻子の家庭教師を引き受けることになった。約束されていたはずの家が与えられず、王に抗議するアンナだったが、愛らしい子供達に教えることにやり甲斐を感じ、子供達や王の妻達もアンナを慕うようになった。そして王自身もアンナに一目おいていた。

ある日、イギリスからの公使がシャムを訪れることに。シャムが野蛮な国と思われて保護国にされることを王は恐れ、悩んでいた。王から使用人扱いを受けて腹を立てていたアンナだったが、チャン王妃の促しもあり、ヨーロッパ様式で大使をもてなすことを王に提案するが…。

【以下、ネタバレを含む感想】

渡辺謙の存在感が凄かったです。コミカルな演技で笑いを取ることが多い役なのですが、ふとした瞬間に王の威厳が垣間見られるのはさすがだと思いました。そして表現の引き出しが豊富。改めて優れた役者さんなのだと。首相役の大沢たかおは、やや一本調子ではあったけれど、こちらも貫禄十分でした。かなりふっくらしていたのは役作りなのでしょう。

ケリーオハラのアンナは、歌唱力は言わずもがな包容力と聡明さを兼ね備えた素敵な女性。相手が王であろうとも自分の尊厳を失わず、でも温かさのある態度で、王の信頼を得ていく姿は清々しいものでした。以前METライブで観たコジ・ファン・トゥッテよりもこちらの方が彼女の良さが存分に引き出されている気がしました。

そしてチャン王妃を演じたラシー・アン・マイルズがこれまた素晴らしい。感情を抑えた歌の背後に、王への愛が滲み出ていて。彼女もケリーオハラと共にトニー賞を受賞したのですが、納得です。タプティム役の女優さんもお上手でした。

途中、日本エレキテル連合みたいな人達が出て来る劇中劇では眠くなりましたが、クライマックスの「Shall We Dance」のシーンは、やはり心踊るものがありました。王様の前なのに昔のロマンスを思い出して思わず1人で踊ってしまうアンナは、けっこう天然というか、夢見がちでロマンチストな面もあるんだなと思いました。

問題になる差別的な描写ですが、特に床に伏して礼をする作法について、アンナが「カエルみたい。あんなことはしたくない」と歌うところは、ちょっと戸惑いました。日本でも同様の作法があるので、ラストで新しく王になる息子が、それを禁ずるところも、スッキリしない感じはありました。

印象的だったのは、王がアンナに、必ず自分より頭の位置を低くしろ、と言うシーン。王が座るとアンナも座り、王が寝そべるとアンナも床に寝転がる…。客席から笑いが起きていましたが、これ、現代の私達も日常的にやってることでは?と後から思ったのでした。特にプライドの高い目上の人に対しては、常にその人より下手に出るように気を遣う。何でこんなことしなきゃいけないんだろうと思いながら。同じことを私もしているなあと思いました。

色々書きましたが、渡辺謙大沢たかおがロンドンで堂々とミュージカルを演じて喝采を浴びる姿を観るのは、同じ日本人として感慨深いものがありました。7月の来日公演も楽しみです。

「王様と私」オリジナル・ブロードウェイ・キャスト盤

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パリのアメリカ人(劇団四季)

観劇日:2019年2月11日

劇場:東急シアターオーブ(渋谷)

上演時間:2時間50分 ※途中休憩あり

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1951年のミュージカル映画を、少しストーリーを変えて舞台化したもの。

歌よりダンスの割合が多くて、以前観たマシューボーンのシンデレラに少し歌が加わった、くらいの感じ。生オケじゃないのが残念でした(四季は財政難で生オケを廃止したそうですね)。

2015年にトニー賞で振付賞を含む4部門受賞しているそうです。

【あらすじ】

舞台は第二次世界大戦後のパリ。退役軍人のジェリーは、アメリカに帰らず、パリで画家を目指すことにした。彼はたまたま出逢った踊り子のリズに一目惚れする。ジェリーの猛アタックにより、2人は頻繁に会うようになるが、ジェリーの友人で作曲家のアダムもリズに好意を持ち、繊維会社の御曹司アンリもリズと親しい仲で、後に婚約する。さらにジェリーは、彼に好意を持つアメリカ人女性のマイロから、パトロンになる話を持ちかけられ…。

【ネタバレを含む感想】

映画よりリズが可愛くて、踊りもしなやかで美しかったです。ジェリーも見事な踊りで、キャラクターにも好感が持てました。

戦争の爪痕がより色濃く描かれていて、ナチスの話や、戦時中の体験、レジスタンスの話などが出てきました(映画でそれにほとんど触れなかったのは、終戦後間もなくて、まだ生々しすぎたのだなと思いました)。

作曲家アダム役の俵和也がチャーミング。アダムは足の悪い役なのだけど、想像上のラジオシティシーンで軽快なダンスを披露していました。「But Not For Me」のソロにも心打たれました。

ジェリーのパトロンであるマイロ役の岡村美南は声量があって存在感もあり、カーテンコールでひときわ大きな拍手をもらっていました。リズの婚約者アンリは映画より見せ場が多く、彼の両親もいい味を出していました。

舞台オリジナルの新作バレエシーンは少し長く感じました。それより最後のリズとジェリーの喜びのダンスがもっと長くてもいいんじゃないかなと思いました。

歌も踊りも危なげなくて、安心して見ていられましたが、歌はガーシュウィンのリズミカルな感じがもっと欲しい気もしました。どちらかというと「きれいな合唱」という印象でした。

リズは3人の男性それぞれに思わせぶりな態度をとるなと思わないでもなかったけれど、最後にジェリーの腕に飛び込むシーンは胸が熱くなりました。そんなわけで、鑑賞後は満足でした。

パリのアメリカ人

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  • 発売日: 2018/11/21
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画狂人北斎

観劇日:2019年1月15日

劇場:新国立劇場

上映時間:120分(休憩なし)

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90歳でこの世を去る時に「天があと5年の間、命保つことを私に許されたなら、必ずやまさに本物といえる画工になり得たであろう」と言ったという葛飾北斎に興味を引かれ、ミュージカル「生きる」でも感銘を受けた宮本亜門演出ということで、今回の観劇を決めました。現代と江戸時代を行き来し、時に両者が交わる演出に戸惑うこともありましたが、観終わった後はズシンと心にのしかかるものが。何と言っても一番は北斎の絵の迫力。あんな恐いプロジェクションマッピングは初めて見ました。

【以下、ネタバレを含むあらすじ】

舞台の始まりは現代。美術館で企画講演を行う北斎の研究家とその後輩である凛太が登場。凛太はかつて画家を志し、賞を取ったこともあったけれど訳あって絵を描くことをやめてしまった様子。

観客が講演会の聴衆役にされてしまうのも面白かったし(最近の流行りかなと思いますが)、北斎が数理学的な理論を使い、コンパスや定規を使って計算し尽くされた絵を描いていたという説明も勉強になりました。ドビュッシーにまで影響を与えていたとは。

続いて江戸時代のシーンへ。ゴミの散らかった部屋で絵を描いている北斎と、娘のおえい。そこにろくでもない孫や、戯作者の種彦がやって来たりするのですが、正直このあたりは少し冗長な印象。

盛り上がるのは、北斎が身を隠した小布施で死体の解剖を目の当たりにするところ。ふわふわした子宮をイメージした舞台美術も美しいです。

キリシタン禁制の当時、箸に見せかけて描かれた十字架の絵や、改革後の日本を予言した見立て絵も興味深かった。

凛太が恋人を津波で亡くす回想シーンの、北斎の絵を使ったプロジェクションマッピングは本当に恐ろしくて、これは被災された方は見られないのではないかと思いました。

北斎が子どもの頃から「見られている」と恐れていた「目」に、実はありのままで受け入れられていると気づくシーンも印象的でした。宇宙の奥義、と言い表わされていましたが、シーボルト等の西洋人を通してキリスト教にも触れていた彼なりの神観なのかなと。でも、その目を描いたものとして、プロジェクションマッピングで使われた最晩年の鳳凰の絵は本当に恐ろしくて、思わず目をそらしてしまったくらいです。

いくら世間に評価されても「自分は偽物しか描けていない」と落胆し、禁書だった舶来の解剖図を見て感嘆し、本物の死体解剖を見て「そうだったのかあ!」と驚喜する北斎。本当に人の評価ではなく、自分の納得する道を邁進した人だったのだなと思いました。人目線でなく自分の価値観で生きるってどういことだろうと考えさせられる作品でした。

舞台を観た後に見つけた下のページですが、北斎がいかに苦労して「神奈川沖浪裏」にたどり着いたかがわかります。劇中にも「天才と簡単に言うな」というセリフがありました。

 

 

北斎決定版 (別冊太陽 日本のこころ)

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パターソン

鑑賞日:2019年1月14日

映画館:アップリンク吉祥寺

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「沈黙」から注目していたアダム・ドライバー主演ということで、観たい観たいと思っていながら延び延びになっていたのが、ようやく念願叶って映画館で観ることができました。鑑賞後、深い満足感に満たされています。

【あらすじ】

ニュージャージー州パターソンに住むパターソンという名のバス運転手は、毎朝6時過ぎに目覚め、まだベッドで寝ている妻のローラにキスをして、朝食にシリアルを食べ、仕事へ行き、詩を推敲し、帰宅後は犬の散歩に行き、途中で行きつけのバーに寄ってビールを一杯飲む。同じことの繰り返しのようで少しずつ変化のある毎日を彼は慈しんでいた。しかし、静かな日常の中で彼に一つの喪失が訪れ…。

【以下、ネタバレを含む感想】

"何も起こらない"といくつかのサイトの感想にあったので、退屈だったらどうしようと思って、何となく行きそびれていましたが、それは(私にとっては)杞憂でした。

たしかに何も心かき乱されることは起こらないけど、非日常を味わえて、穏やかな気持ちになれる。ある意味理想的な映画と言えると思います。願わくば常にどこかの映画館で上映されていて、嫌なことがあったり、気持ちがせかせかしてて心拍数を下げたい時に観たいような、そんな作品でした。

アダム・ドライバーの奥さんに向ける無防備な笑顔がキュートです。バスの中で詩を考えたり、滝を思い浮かべたりしているところが、何だか禅っぽくて、彼は東洋と相性のいい俳優さんじゃないかと思いました。

同じことの繰り返しを好むパターソンとは対照的なアーティスト気質の妻ローラは、イラン出身のゴルシフテ・ファラハニが演じていましたが、とても美しくセクシー。パターソンは、時に彼女の気まぐれに戸惑いながらも、一途に彼女への想いを詩にうたい続けます。

飼い犬のブルドッグ、マーヴィンもとてもいい味を出しています。演じたのは、もと保護犬のネリー。カンヌでパルム・ドッグ賞も受賞したそうですが、残念ながら映画公開前に亡くなってしまったそうです。クレジットの一番最後でも彼女のことに触れられていました。

最後の最後に永瀬正敏が出てきた時は、唐突な印象もありましたが、同じ日本人として、頑張れ!と応援するような気持ちでした。後で調べたら、監督のジム・ジャームッシュは、永瀬主演の「ミステリートレイン」の監督でもあったのですね。

個人的なツボは、頻繁に出てくる双子と、バーの客の「俺は俳優だ」。パターソンの好きな詩人ウィリアム・カーロス・ウィリアムズのスモモの詩も、すごく可愛かった。

観終わった後、自分のささやかな日常も満ち足りたものに思えるような、そんな映画でした。

パターソン

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ナターシャ・ピエール・アンド・ザ・グレート・コメット・オブ・1812

観劇日:2019年1月8日

劇場:東京芸術劇場

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2年前にブロードウェイに行った時、気になっていたのに観そびれた作品。1番の売りであるコメットシートを、奮発して体験してきました。トルストイの「戦争と平和」が原作ということで、ややこしい話かと思いましたが、見てみると意外とわかりやすかったです。

【あらすじ】

舞台は19世紀のロシア。ピエールは父から莫大な財産を受け継いだが、妻エレンとの愛のない暮らしの中、いかに生きるかを問い続けている。

一方、ピエールの親友アンドレイと婚約していたナターシャは、アンドレイの旅行中に快楽主義者のアナトールと恋に落ち、2人は駆け落ちを企てるが…。

【以下ネタバレを含む感想】

劇場全体が素敵に飾られていました。コメットシートから見た客席がまず綺麗。

↓こちらがコメットシートの見取り図です。

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手前が通常の観客席がある方です。コメットシートはXA〜XDの5つのエリアがあって、XAの右横がオーケストラピットになっていました。コメットシートのスペースは、舞台より少し低くなっていて、カウンター席とテーブル席がありました。私はテーブル席でしたが、1人観劇だったので、相席の方と少しぎこちない空気にはなりました。

開演5分前くらいから、キャストが数名盛り上げるために舞台に出てきます。ピロシキやエッグマラカスがもらえる場合もありますが、各エリア1人ずつぐらいなので、本当にピロシキが食べたい人、エッグマラカスが欲しい人は事前にロビーで買っておいた方が無難でしょう。

舞台の内容ですが、ピエールの地味ともいえる心の動きが物語の主軸になっています。飲んだくれて本ばかり読んで無為に過ごしていた彼は、妻の愛人ドロホフとの決闘を機に、自分は今まで本当の意味で生きていなかったと悟ります。紆余曲折あって、彼の心が真に生き始めた時に、大彗星(グレートコメット)が到来するのでした。

ピエール役の井上芳雄は初見でしたが、お客さんの熱い視線からみると、かなりの人気者の様子。綾野剛みたいな線の細い風貌で、BW版のジョシュ・グローバンとは随分趣が違いました。原作の設定は肥満だそうですが、個人的には日本版の雰囲気の方が好みでした。

ピエールの物語と並行して語られるのが、ナターシャの幼い恋。演ずる生田絵梨花は色白で若々しく、舞台度胸のある人という印象。ナターシャという役がただ可愛いだけでなく、嫌悪や虚栄心なども描かれているのがいいと思いました。

存在感があったのが、ナターシャを誘惑するアナトール役の小西遼生。ミュージカル「生きる」でも観ましたが、今回の方が引き締まって華がありました。ちなみにBW版のアナトールは夢のような王子様キャラですが、小西版はワイルドでした。同じくワイルドなドロホフと少しキャラが被ってる気もしました。

特筆すべきは武田真治。ナターシャの婚約者アンドレイと、彼の父である老公爵の二役でしたが、特に老公爵は熱演。身体能力高いなと思いました。あとは目の前でサックスが聴けたのがよかった。

コメットシートの感想ですが、全体像を把握するには正面から見た方がいいと思います。でも、至近距離で熱演が見られたり、キャストが真横をすり抜けたり、肩を触られたりするのは、やはりなかなか無い体験でした。アトラクションに参加しているような感覚もありました。注意点としては、ポップコーンの雪が降ってくるので、コートはクロークに預けた方がいいです。

全編歌で繰り広げられるのですが、一箇所だけ、セリフで語られるところがあります。そこがとても心に沁みました。この舞台を観に来てよかったなと思った瞬間でした。

 

戦争と平和 [DVD]

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Natasha Pierre & the Great Comet of 1812 / O.C.R.

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