仕事が嫌になったからブロードウェイでミュージカル観てくる

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ダマスカス入城から100年:アラビアのロレンス

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完全版の2枚組DVDを2日に分けて鑑賞しました。公開の1962年から26年後に20分の未公開シーンが追加された再編集版です。観てから気づいたのですが、今年はダマスカス入城100周年なんですね(1918年10月1日)。

原作は実在のイギリス軍人で考古学者トーマス・エドワード・ロレンスの「知恵の七柱」。

完全版 知恵の七柱〈1〉 (東洋文庫)

完全版 知恵の七柱〈1〉 (東洋文庫)

 

【あらすじ】第一次大戦中のエジプト、カイロ。イギリス陸軍少尉ロレンスは、アラブ人を支援してオスマン帝国を攻撃する任務を命じられる(当時中東を支配していたオスマン帝国は、イギリスの敵国ドイツと同盟を結んでいた)。ロレンスはアラブ反乱を率いるハーシム家の王子ファイサルの居場所を探しあて、彼にオスマン帝国の補給港アカバを攻め落とすことを提案するが…。(あらすじ終わり)

現在のパレスチナ問題の遠因となったイギリスの三枚舌外交。その中で苦悩するロレンスの姿が描かれています。イギリスは、ファイサルの父フサインとアラブ人の国家建設を約束する「フサイン・マクマホン協定」を結んでいました。この協定に沿ってロレンスはアラブ反乱を支援するわけですが、一方でイギリスは英仏露でオスマン帝国の領土を分断する「サイクス・ピコ協定」を定め、さらにユダヤ人の国家建設を認める「バルフォア宣言」も出していたのです。

映画の中で、アラブの独立のために軍を率いて戦うロレンスは、アラブ人達に首長として尊敬され、絶大な人気を誇るようになります。でもピーター・オトゥール演じるロレンスは、常に1人違う次元にいる殿上人のような、何かを静かに悲しんでいるような雰囲気を醸し出していました。あまりに老成した表情なので、「27歳くらいだ」という台詞に違和感を感じたのですが、実際撮影時は20代だったのですね。ロレンスのアラブ統一国家建設の夢がもろくも崩れ去る様子は、胸が痛みます。(彼は「天地創造」で、ソドムとゴモラの滅亡を伝える天使の役を演じていますが、そこでも何とも言えない悲しみをたたえた目をしています)

ロレンスの片腕となるハリト族の首長アリは、オマル・シャリーフ。オマル本人は、後年あるインタビューで「自分はラクダに乗って座ってただけだ」と答えたこともあったそうですが、いやいやどうしてかっこいいです。砂漠の蜃気楼からの登場シーン、ラクダからの降り方、立ち姿、どれも美しい。彼とピーター・オトゥールの2ショットがとても画面映えして、アカデミー主演男優賞・助演男優賞も納得。2人は生涯とても仲の良い友人同士だったそうです。

もう一つ特筆すべきは、特撮を使わずに撮影された砂漠の映像です。照りつける太陽や砂嵐など、CGではない本物の風景が切り取られていることで、その厳しさ、恐ろしさが迫力をもって伝わってきます。何かの本で「砂漠のリーダーには決断力が求められる。良くても悪くても何も決断しないよりはいい。ぐずぐずしていると死んでしまうからだ」と書いてありましたが、撮影も相当過酷であっただろうと思います。

3時間半の長さにひるんで、観るのを先延ばしにしてきましたが、見始めるとあっという間でした。あんな環境でこんな超大作映画を作り切ってしまうデヴィッド・リーン監督は、凡人には計り知れない特異な人だと改めて思いました。

漫画もあるんですね。

T.E.ロレンス コミック 1-4巻セット (ウィングス文庫)

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