仕事が嫌になったからブロードウェイでミュージカル観てくる

Nothing is as beautiful as something that you don’t expect.

アダム・クーパー版「白鳥の湖」を観て考えたこと

2019年来日のマシュー・ボーン白鳥の湖」、結局主役3バージョン制覇して、さらに初代アダム・クーパー版のDVDも購入しました。 これが噂の沼でしょうか。

チャイコフスキー:バレエ「白鳥の湖」 [DVD]

チャイコフスキー:バレエ「白鳥の湖」 [DVD]

 

何度か繰り返し観ているわけですが、色々と思うことがあるので、ここに書き留めておきます。

まず、アダム・クーパー版では、少年の王子が登場するんですね。彼が最初にうなされるシーンから、最後のスワンに抱かれるシーンまで、重要なポイントになっていると思いました。

王妃と王子が国民に挨拶する冒頭のシーン、観劇した時は、成人王子しか出てなかったので、なぜ同じようなことを2回繰り返すのか違和感があったのですが、もともとは1回目に少年王子、2回目を成人王子が演じることで、彼の変化(または変わらないところ)を表していたんだと納得。朝起きて召使いにお世話してもらうシーンも少年王子の方が自然です。四幕の王子臨終シーン、ベッド上では母王妃に成人王子が抱かれ、背景にスワンに抱かれる少年王子が浮かび上がることで、王子良かったね、という心への迫り具合が全然違うと思いました。日本上演版に成人王子しか出てこないのは、お金の事情でしょうか。

成人王子スコット・アンブラーは、DVDでアップになると少しお年を召されてる印象でしたが、圧倒的に演技がお上手。スワンク・バー後の傷心の表情で「あ、今死のうって覚悟したな」とわかるし、二幕の幸せな踊りの後の笑顔もチャーミング。何より目がきれい。三幕でストレンジャーに翻弄される腰抜けぶりも見事です。精神崩壊していく様子がちゃんと見えるので、銃発砲が唐突じゃない。

そして、アダム・スワン。今回来日のマックス版を観て、こんなはずじゃない気がすると、youtubeで検索して初めてアダム版(二幕)を観ました。その美しさ、妖艶さに痺れつつ、だよね?こういう事だよね?と納得。マシュー・ボール版の追加チケット購入に踏み切ったのでした。アダム・スワンの一番好きなシーンは、二幕でスワン一同手招きからの、王子が近づこうとすると円を描いて逃げて、上手でキメの白鳥ポーズをするところ(あのポーズを考えたマシューボーンほんと天才)。眼差しヤバいです。髪型が、なんであんな散髪してきたばかりみたいにパッツンなんだろうと思いますが、当時の流行りでしょうか。

王妃もDVD版のフィアーナ・チャドウィックが凄くいい。柔らかさとしたたかさが同居した魅力的なキャラクターでした。ストレンジャーが三幕で王妃の腕にキスする(舐める)時、すぐに落ちないで拒否するところにも威厳を感じます。段階的に心を開いていくのが見て取れました。王妃の年齢設定は40代だそうですが、ストレンジャーとの踊りの中で十分に女性として扱われて満足する様がよく現れていました。このあたりがベタベタし過ぎないのは、マシューボーンがゲイだからなのかなと思います。スワンクバーでガールフレンド含む男女が踊るシーンも、ことさらに女性らしさを強調してないのが、とても好きです。

ところでオペラ鑑賞の王妃登場シーンでは、ロンドンの観客は起立して敬意を示していて、すごいと思った。それなのにストレンジャーとあんな絡みをするとは…日本の皇室では考えられない。

DVDについていたマシューボーンのインタビューに「"白鳥"は、王子にとって、こうありたいと願う理想像で(中略)、王子の心の状態や感じているムードを映している、もう一つの自我なのだ」とあって、色々と合点がいくところがありました。

たとえば三幕のストレンジャー。なんで最終的に年増の王妃を選ぶのか不思議だったのですが、彼が王子のもう一つの自我であるなら、一幕の近親相姦を連想させるシーンとの関連でも納得がいきます。白鳥とストレンジャーの王子への態度の一貫性の無さも、王子自身の心の中の葛藤だと思えば、なるほどねと。四幕でスワンが傷を負っているのもそういう事なんですね(王子が傷つけばスワンも傷つく…)。

寂しい子どもが自分の心の隙間を埋めるために空想上の友達(イマジナリーフレンド)を作り上げる、という話はよくあると思うのですが、このスワンレイクもその類かなと思います。

観れば観るほど新たな面が見えてきて、癖になる作品だと思います。今後どんなキャストで上演されていくのか、楽しみに見守っていきたいと思います。