ローズのジレンマ
観劇日:2021年2月23日
劇場:シアタークリエ
当日券で観劇。大地真央のすごさを思い知らされた。ニールサイモンの温かさにほっこりした。
【以下、ネタバレを含む感想】
滑舌のいい大地真央。コミカルな動きに包容力を感じる別所哲也。一番生身の人間らしい村井良大(「生きる」の息子役の人だったんだと、後から気づきました)。
神田沙也加演じるアーリーンがウォルシュの霊?に訴えるシーンでは涙。アーリーンとローズのハグは、大地真央の男前な仕草で、美しいラブシーンのようにも見えた。
グリーフがテーマだったが、死者への語りかけをただの妄想にしない、優しい結末だった。ニールサイモンの人間へのあたたかい眼差しを感じた。
見どころは、最後の「レビュー」。神田沙也加のトゥルーカラーズも贅沢だったけど、Lady is the trampでは大地真央の本領発揮。スター性がキラキラ輝いていて、宝塚時代はさぞ凄かったのだろうと思った。落語を生で聴いた時も思ったけど、テレビではわからない偉大さってありますね。光り輝く大地真央を、出過ぎないスマートさでサポートする別所哲也とのコンビは本当にきまってました。時間差退出のアナウンスもチャーミングで○。ちょっとJwaveっぽかった。
たぶん作者は、落ちぶれた女性作家の哀れさをイメージしてたと思うけど、大地真央の現役感がすごいので、あまり悲壮感が感じられなかった。それに大地真央の演じるローズには、男性に支えてもらうというより、全然一人で生きていけそうな強さを感じた。鑑賞後感は、とにかく元気をもらった感じだった。
この作品、黒柳徹子もやっていたらしいが、一体どんな感じなのか、そちらにも興味津々です。
ミュージカル「マリー・アントワネット」
観劇日:2021年2月16日
劇場:東急シアターオーブ
遠藤周作原作と聞いて、観劇を決めた。前半は、正直なところ退屈に感じたが、後半はぐぐっと引き付けられた。
【以下、ネタバレを含む感想】
華やかなイメージがあったが、ギロチンで始まりギロチンで終わる、ヘビーな内容だった。
立場の違う二つの勢力を代表するマリーとマルグリットの対話がテーマ。それが一番鮮やかに表現されるのが、2人のデュエット『憎しみの鐘』。勝手に決めつけないで!と叫び合うのが印象的。その後、子守唄をきっかけに距離が縮まる。
ランバル公妃の『神は愛してくださる』、とても美しかった。最後あんなことになってしまうなんて(涙)。
処刑前に倒れるマリーに歩み寄り手を取るマルグリットのシーンは、十字架処刑前に倒れたキリストと重なると感じた。このあたりは遠藤周作の原作にもあるのかしら、と思った。
全体的に、王家の人達のお育ちの良さからくる人の良さに比べて、民衆はデマに扇動されて我を失っている、という演出で、金持ち目線と言えなくもなかった。
「首飾り事件」などは知らなかったので勉強になった。
処刑までのシーンはとても痛々しかったので、最後のカーテンコールで、また綺麗なマリーを見られたのは良かった。
ハンサード(NTLive)
鑑賞日:2021年1月28日
映画館:池袋シネリーブル
予告編の2人の演技にしびれて、観劇を決めた作品。
冒頭の、花瓶のアップだけで心が震え、コロナ禍の中、自分がいかに観劇に飢えていたかに気づいた(元旦もミュージカル観たのに…)。
スクリーンの中の英国ナショナルシアターは満席で「密」状態。2019年の録画なのでマスクをしている人は1人もおらず隔世の感があった。
【以下、ネタバレを含む感想】
保守党の政治家で、サッチャーの右腕的存在の夫ロビン。帰宅した彼を迎える妻ダイアナは、寝巻き姿のまま。冒頭から夫婦間の皮肉の応酬が始まる。
夫がラジオ番組内で支持を表明した、法案「セクション28」をめぐって2人の口論は頂点に達する。その背景には息子の死があった。
イギリスだからか、以前観た『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない』よりは穏やかな言い合いで、安心して観ていられた。
右翼の夫と左翼の妻。構図が少し『スカイライト』に似ていると思った。チーズも出てくるし、物も割れるし。階級間格差はイギリス社会の大きな問題なのだと感じた。
ロビン役のアレックス・ジェニングスは『マイフェアレディ』に出演したこともあるそうで、話し方も時々ヒギンズっぽかった。
来客のためにロビンが準備するブラッディメアリー。アルコール多めで客席から微かに笑いが起きていた。仕上げにセロリで混ぜるのが美味しそうだった。
終盤でお互いの本音が露わになる2人。特にロビンの、心の鎧をすっかり脱いだ表情が見事だった。
イギリスだからか、それともこの夫婦の距離感なのか、最後までハグはなかった。一番2人が近づいたのは、ロビンがダイアナのワンピースのファスナーを上げる時。違う話をしながら自然に夫がファスナーを上げるシーンに、夫婦が一緒に過ごした時間の長さを感じた。すれ違いがあっても、子を想う強さを誰よりも共有できるのが夫婦なのだと思った。
カーテンコールで、ダイアナ役リンジー・ダンカンの表情が一気に晴れやかに変わったのが印象的だった。まとっていた疲労感すら演技だったのかと衝撃を受けた。ワンピースもとてもかわいかった(なんと美しい70歳!)。
オペラ座の怪人(劇団四季)
観劇日:2021年1月1日
劇場:JR東日本四季劇場[秋]
昨年アンドリュー・ロイド・ウェバー卿のはからいで無料配信された、ラミン・カリムルー&シエラ・ボーゲス版を観て、ぜひ生でシャンデリアを見てみたいと思っていました。
大晦日にコロナ感染者が東京で1300人を超え、あまり大きな声では言えない観劇となりましたが、お正月にふさわしいきらびやかな舞台でした。
【以下、ネタバレを含む感想】
プリマドンナのカルロッタ登場シーンから、キャストの圧倒的な歌唱力を堪能。クリスティーヌのハイトーンも聴けて満足でした。
席は2階の前から3列目でしたが、シャンデリアも綺麗に見え、中盤の嫉妬に苦しむファントムも近くで見られ、大変お得感がありました。舞台は意外とこじんまりとした印象。
マスカレードのシーンは、新年にぴったりの華やかさでテンションが上がりました。
「ドンファンの勝利」シーンはなかなかの色っぽさだったので、客席のお子様達には刺激が強すぎないかと、ハラハラしてしまいました。
結果としてクリスティーヌはラウルのもとに行くのですが、彼女とファントムが音楽で共鳴する様を見ていると、2人にしか共有できない世界が確かにあるのだなと思いました。
最後ファントムがウェディングベールをかき抱くところでは涙、涙…ご丁寧に背後にクリスティーヌとラウルの幸せな姿を浮かび上がります。
歌い上げるデュエットから、ファントムの囁くようなソロ、猿のオルゴールにいたるまで、音楽のひとつひとつが美しく、しかも生オケで聴け、お腹いっぱいの観劇初めでした。25周年ロンドンキャスト来日イベント「ミュージカル・ミーツ・シンフォニー 2021 "The Reunion"」もぜひ行きたい!
こちらは原作本です。
「リチャード二世」(新国立劇場)
観劇日:2020年10月23日
劇場:新国立劇場中劇場
戯曲を読んだり、ホロウ・クラウンでベン・ウィショー版をちらっと見たりしたことがあったけど、ひ弱な王様の話という印象で、あまり惹かれる演目ではありませんでした。でも鵜山仁演出だし、評判もいいようなので、急遽当日券で観劇。とても良かった。
【以下、ネタバレを含む感想】
舞台美術や衣装がとても素敵で、登場人物が舞台に現れた途端、劇場が異空間になりました。
リチャード役の岡本健一がとても魅力的。冒頭のシーンでトマス・モーブレーと相対する姿、美しかった。台詞のひとつひとつや相手役へのリアクションに途切れることのない一貫性を感じました。後半、虚飾が剥ぎ取られた後に浮かび上がってくる人格のきらめきが、よく表れていたと思います。最後の殺陣のシーンはかっこよかったなあ。
対するボリングブルックは、本当は何を考えているのかわからなかった。いつ王位を奪い取ることを決めたのだろう、リチャードのこと尊重してるように見えるし、でも「ロンドン塔へ!」と急に叫んだりするし。最後までつかみ所のない存在でした。
脇を固める役者さん達が強者揃いで、とても贅沢な舞台でした。特にヨーク公役の方、仲代達矢みたいな迫力で、コメディもお上手。横田栄司さんというんですね。ボリングブルックの父ゴーントの臨終のシーンもすごかった。
こんなご時世なので、お芝居に行ったことをあまり大きな声で言えない雰囲気があったり、自分が感染したら職場で責められるかなあなどと不安もよぎりましたが、こんな状況だからこそ役者さん達の命をかけた演技が見られるのは、本当に貴重だという気がします。芸術って人が生きていく上で必要不可欠なものなのだと、ひしひしと感じました。
こちらは、10代目ドクター・フーのデビッド・テナント版。観てみたい。
「生きる」ミュージカル(日生劇場)
観劇日:2020年10月10日
劇場:日生劇場
初演時に市村さん版をみてとても感動して、鹿賀さんバージョンもぜひ観たいと思っていました。今回鹿賀さん初日に観劇。本当に観てよかった。
【以下、ネタバレを含む感想】
オープニングのコーラスの厚みに、ああ来てよかったと、生の歌声に包まれる心地良さを味わいました。生歌生オケに勝るものなしです。
ラストシーンでまたもや号泣。2回目なのに。結末を知ってるのに。あのラストの公園には、細部に至るまで勘治の人生の集大成が詰まっているんですよね。泣けて泣けて仕方なかった。公園できて本当によかったね、という気持ちで一杯で(フィクションなのに)、カーテンコールの時も拍手をしすぎて手が赤くなりました。
勘治が癌になって見つけた一番大切なものは、公園を作って人の役に立つ事というより、息子の光男との絆だったんだなと思いました。
お葬式のシーンでは、助役や役所の人たちが小説家や婦人会とやり合うシーンが繰り広げられていて、でも背後でほほえむ勘治の遺影はそんな事を超越して満足しているように見えました。
鹿賀丈史さんはさすがの貫禄。2回目のバースデーの場面で歌い出す時、急に堂々とかっこよくなって、ジャンバルジャンか?と思いました(レミゼ観てないけど)。とても70目前とは思えない。市村さんの時も思ったけど、前半いくらヨロヨロのふりをしても、一線で活躍し続けている役者さんの生命力って隠しきれないものがあるなと思います。
道具がとても効果的に使われていました(これは映画から引き継がれたものかもしれないですが)。バースデーケーキ、うさぎのおもちゃ、ブランコ、そして帽子…。いちいちキュンとしてしまいました。
息子の光男は思い込みが激しすぎて、小説家と一緒に「話聞けよ!」と言いたくなりましたが、親に反発する子供ってこんなものかなと思ったりもしました。
婦人会の方々と、とよちゃん、みんな背が小さくて、でも一生懸命歌って踊ってなんだか可愛い。こんなところにも日本のミュージカルのオリジナリティを感じました。
小説家がだんだん勘治に感化されていく様子もよく伝わってきました。
私たちの誰もがいずれ経験する宣告。それをどう受け止めていけばよいか。そんな事も考えさせられた作品でした。久しぶりに思いきり感動の涙を流して、仕事のストレスでくすぶっていた気持ちが浄化されるようでした。本当に観に行ってよかったです。
ファニー・ガール(ウエスト・エンド版)
視聴日:2020年9月26日
(2018年10月24日Manchester’s Palace Theatre公演録画)
バーブラ・ストライサンドの映画が好きで、ウエスト・エンド舞台版も観たいと前から思っていました。Broadwayhdで期間限定1ヶ月無料(会員登録要)と知って、喜んで視聴。
【以下、ネタバレを含む感想】
主役のシェリダン・スミスはイギリスで人気の女優さんだそう。動きが吉本新喜劇みたいだなと思ったら、シットコムでも活躍してる人のようです。
ニッキー役の俳優さんは、オマル・シャリーフのギラギラ感はなく、サラッとした印象だけど、タキシードが似合う声の良い人で、個人的には合格点。「You are a woman, I am a man」のシーンは楽しませていただきました。2人の身長差がすごいので、ファニーがいつも下の方でちょこまかしている感じ。
映画との大きな違いは、序盤でファニーが歌う「I’d rather be blue over you」とフィナーレの「My man」がカットされていた事。前者は囲われた愛人の歌で、後者は離れていく男性をひたすら思い続ける女性の歌なので、カットされたのは時代だなあと思いました。最後は「My man」の代わりに「パレードに雨を降らせないで」が歌われ、自立した女性像が描かれていました。ちょっと立ち直りが早すぎる気もしましたが。
ファニーとニッキーのすれ違い時には、ニッキーのソロ曲もあって、より彼の心情が表されていたのも興味深かったです。やはり、男としては飼い慣らされるのが嫌だったのね…。
あとは振付師のエディと、ファニーのお母さんの出番が増えていました(どちらの役者さんも芸達者)。
シェリダン・スミスのファニーは、バーブラ・ストライサンドの圧倒的なカリスマ性はありませんが、小さなおばちゃんキャラで親しみやすく、応援したい気持ちで観ていました。歌もお上手。鑑賞後感としては、満足満足でした。
また、映画版を観直してみたくなります。