幸運にもリセールチケットが手に入り、ノエル・カワード作『陽気な幽霊』を観られることとなった。今回の観劇の最大の目的は、『おっさんずラブ』で一世を風靡した田中圭を生で見ること。期待を胸に劇場に向かったが、幕が上がると想像以上に“心霊現象”が前面に押し出された作品で、ひるんだ。降霊のシーンは鳥肌が立つほどで、小学生の頃に流行ったコックリさんを思い出した。
なぜ死んだ妻の幽霊が現れるというストーリーになったのか。観劇中ずっと気になっていた答えを求めて調べてみると、この戯曲が執筆されたのは第二次世界大戦中のロンドン大空襲のさなかだった。死と破壊に直面する日々の中で、カワードはユーモアをもって“死”というテーマに向き合ったのだろう。その背景を知ると、ただの心霊ものではなく、時代が作品に刻まれているのを感じる。
幽霊の妻・エルヴィラを演じた若村麻由美は、とにかく華やか。登場した瞬間、その圧倒的なオーラに魅了された。くだけたセリフも軽やかに操り、「宝塚出身の女優だったのでは?」と思ってしまうほどの華と技術を兼ね備えていた。霊媒師・マダム・アルカーティを演じた高畑敦子は、まるで映画『ゴースト』のウーピー・ゴールドバーグのようなエネルギッシュさで舞台を支配し、観客を沸かせた。
そして、田中圭。二人の妻と霊媒師をも惹きつける魅力的な男性という役柄が、彼にぴったりだった。テレビで見るよりスマートな印象で、バスローブ姿で登場した時には、客席から「細っ!」という声が漏れた。先妻の幽霊との再会時のくつろいだ口調は、「この2人は夫婦だったのだな」と思わせる説得力があった。ラストの独白は胸を打つものだった。
ユーモアの中に死というテーマが漂う。『陽気な幽霊』は、軽快なコメディでありながら、戦時下の生者と死者の近しさが通奏低音のように流れる作品だった。
聖書の「神に対しては(生者も死者も)、みなが生きているからです」という言葉を思い出した。
観劇日 2025年5月5日
劇場 シアタークリエ






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