仕事が嫌になったからブロードウェイでミュージカル観てくる

Nothing is as beautiful as something that you don’t expect.

ハンサード(NTLive)

鑑賞日:2021年1月28日

映画館:池袋シネリーブル

予告編の2人の演技にしびれて、観劇を決めた作品。

冒頭の、花瓶のアップだけで心が震え、コロナ禍の中、自分がいかに観劇に飢えていたかに気づいた(元旦もミュージカル観たのに…)。

スクリーンの中の英国ナショナルシアターは満席で「密」状態。2019年の録画なのでマスクをしている人は1人もおらず隔世の感があった。

【以下、ネタバレを含む感想】

保守党の政治家で、サッチャーの右腕的存在の夫ロビン。帰宅した彼を迎える妻ダイアナは、寝巻き姿のまま。冒頭から夫婦間の皮肉の応酬が始まる。

夫がラジオ番組内で支持を表明した、法案「セクション28」をめぐって2人の口論は頂点に達する。その背景には息子の死があった。

 

イギリスだからか、以前観た『ヴァージニア・ウルフなんかこわくない』よりは穏やかな言い合いで、安心して観ていられた。

右翼の夫と左翼の妻。構図が少し『スカイライト』に似ていると思った。チーズも出てくるし、物も割れるし。階級間格差はイギリス社会の大きな問題なのだと感じた。

ロビン役のアレックス・ジェニングスは『マイフェアレディ』に出演したこともあるそうで、話し方も時々ヒギンズっぽかった。

来客のためにロビンが準備するブラッディメアリー。アルコール多めで客席から微かに笑いが起きていた。仕上げにセロリで混ぜるのが美味しそうだった。

終盤でお互いの本音が露わになる2人。特にロビンの、心の鎧をすっかり脱いだ表情が見事だった。

イギリスだからか、それともこの夫婦の距離感なのか、最後までハグはなかった。一番2人が近づいたのは、ロビンがダイアナのワンピースのファスナーを上げる時。違う話をしながら自然に夫がファスナーを上げるシーンに、夫婦が一緒に過ごした時間の長さを感じた。すれ違いがあっても、子を想う強さを誰よりも共有できるのが夫婦なのだと思った。

カーテンコールで、ダイアナ役リンジー・ダンカンの表情が一気に晴れやかに変わったのが印象的だった。まとっていた疲労感すら演技だったのかと衝撃を受けた。ワンピースもとてもかわいかった(なんと美しい70歳!)。

Hansard (English Edition)

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