アステアのステップは一見の価値有:トップ・ハット
11月からV6の坂本昌行と多部未華子で日本プロダクションが上演される「トップ・ハット」。その元ネタであるフレッド・アステアとジンジャー・ロジャースのミュージカル映画を、レンタルで観てみました。
【あらすじ】
ブロードウェイのスターダンサーであるジュリー(アステア)は、ロンドン公演滞在中、同じホテルの真下の部屋に泊まっていたモデル、デール(ロジャース)に一目惚れする。デールもジュリーに惹かれるが、彼女はジュリーの友人の妻マージをジュリーの妻だと勘違いしてしまい…。(あらすじ終わり)
冒頭、私語厳禁の小説クラブで静寂を破ってタップを踏むところから、とにかくアステアが踊って踊って踊ります。
正直なところ脚本はかなり雑で(勘違いの引っ張りすぎに無理がある)、カットの繋ぎも粗く、終わりも唐突なのですが、雲の上を歩いているかのようなアステアのステップは一見の価値有。どういう筋肉の使い方をしているんでしょう。特に名曲「Cheek to Cheek」のシーンの多幸感は半端ないです。アステアの燕尾服姿もきまっています。
共演のジンジャー・ロジャースもアステアに余裕でついていっていて、かなり有能なダンサーだと思うのですが、いくら彼女が華やかなドレスを着ていても、ついアステアに目が行ってしまうから不思議です。ジュリーの友人ハードウィック夫婦や、その召使いベイツもいい味を出しています。
このざっくりとした話が、イギリスのミュージカル版では2013年オリヴィエ賞(新作ミュージカル賞ほか)を受賞したそうなので、どのように料理されたのか、非常に興味あるところです。
ミュージカル「SMOKE」
観劇日:2018年10月20日
劇場:浅草九劇
上演時間:1時間50分(休憩なし)
不遇の詩人、李箱(イ・サン)を題材にした韓国ミュージカルの日本プロダクション。台詞や歌詞のあちこちに彼の詩と思われる言葉が散りばめられていました。ダダイズムだというので難解かと思いきや、比較的わかりやすいものが選ばれている印象。わかりにくいものには、説明の台詞が添えられていました。
【あらすじ】詩の書けない詩人〈超〉と絵の描けない絵描き〈海〉。〈超〉は海を見に行く金を手に入れるため、三越の令嬢を誘拐することを〈海〉に持ちかける。しかし〈超〉が身代金要求の電報を打ちに行った間に、令嬢〈紅〉と〈海〉は打ち解け始め…(あらすじ終わり)
【以下、ネタバレを含んだ感想】
中央にステージがあり四方を5列ほどの席が囲む形。3列目からの観劇でした。最初は感情移入できず、間違ったところに来てしまったような気持ちに。でも途中から、そういうことか!と引き込まれました。
〈海〉の風貌に似合わない子どもっぽい喋り方や、詩を読む時だけ大人びるところで感じた違和感も、後で納得。ピストルを手に持って歌うシーンで、吹っ切れた勝利のような表情を見せる瞬間が切なかったです。(ただ恰幅のよい役者さんで肺病には見えず、もっと長生きしそうだと思いました。)
〈紅〉は韓国らしい包容力と激しさに溢れた女性で、現地キャストだとどんな感じなのだろうと想像。「おまえが俺たちを苦しめた」と何度も言われていたけど、根拠のない希望ほど残酷なものはないという意味なのでしょう。〈超〉役の役者さんはTMレボリューションのような雰囲気。イ・サンを苦しめる天才の虚像。
演出はレーザービームやスモークを多用していて、テレビで見かけるジャニーズのステージさながらでした。
ここで終わるかな、というところで終わらず、念押しのように続くのは、韓国ミュージカルならではなのでしょうか。台詞も繰り返しが多かったような。
「言葉は口にでた瞬間から腐り始める」「僕の言葉は心からほとばしり出るので、句読点を打っているひまがない」など、印象的な言葉が幾つかありました。
ひたすら自分に高い理想を要求し続けるイ・サンに、たしかに「薬飲んでちょっと寝た方がいいよ」と言いたくなりましたが、日本の韓国併合が彼の苦悩の背景にあるのだと考えると何とも言えない思いでした。こうして私達がミュージカルを観ていることが、彼の切望した夢がかなった証なのだと思いたい。
それにしても浅草はアクの強い町でした(特におじさん達)。コンビニの店員さんも、八百屋さんのような人間味ある接客でした。
観光客の真似をして撮ったスカイツリー。
↓こちらは、在日本韓国YMCAで2010年に行われた「李箱 生誕100年」記念講座の記録。李箱の文学の背景にあるものが説明されています。
http://www.ayc0208.org/jp/cutnmix3/kiroku/season3_7.html
世界を狙う日本発ミュージカル:「生きる」初日(TBS赤坂ACTシアター)
観劇日:2018年10月8日
劇場:TBS赤坂ACTシアター
公演時間:2時間15分(休憩有)
名作誕生の瞬間に図らずも立ち会ってしまった、そんな気持ちです。期待の斜め上を行く感動を体験しました。
【あらすじ】市役所の市民課課長、渡辺勘治は定年間近。同じ時間に起き、同じ朝食を食べ、同じ時間に出勤して帰る代わり映えのしない日々を送っていた。ところがある日、自分が胃癌で余命わずかだと悟り…。(あらすじ終わり)
ホリプロは今年のトニー賞受賞作「The Band's Visit」に出資をしていて、「メリー・ポピンズ」日本プロダクションもとても見応えがあったので、ここのところ注目していました。マシューボーンの「シンデレラ」もそうですね。日本オリジナル・ミュージカルということで、応援したい気持ちもあって観劇。
演出は宮本亜門。音楽はキャロル・キングのミュージカル「Beautiful」のジェイソン・ハウランド。サウンドデザインは、ファン・ホームやThe Band's Visitにも携わっていたヒロ・イイダ。
公式サイトに企画段階からの詳細が記されています。俳優とのワークショップをしながら本を練っていく方法も取り入れられたそう。
(以下ネタバレ有り感想)
冒頭のコーラスシーンで「あ、この作品当たりだ」と思いました。事前に公式動画を聴いた時は、正直ディズニーの日本語吹替版みたいな不自然さを感じて「うーん」という感想だったのですが、生で聴くとかなり自然でした。
場面転換もテンポ良くスムーズで、地味になりそうな市役所のシーンも机が動いたりして飽きさせない演出。自分の病を悟った勘治が小説家に連れて行かれる夜の街のシーンは華やかで楽しめます。
市村正親は、ずいぶん昔にクリスマスキャロルで観たことがあって「歌って踊れる俺を見て!」というタイプの役者さんだと思っていたのですが、今回はいい意味で裏切られました。1幕はとにかく目立たずほとんど喋らず、ひたすら振り回されるだけ。1幕の最後でようやくパワー放出、本領発揮という感じでニヤリとしました(2階の女子学生達が持ってくるバースデーケーキも◯)。
2幕目はお葬式シーンからの息子と小説家のやりとりなど、一部中だるみを感じることもありましたが、圧巻はかの有名なブランコシーン。彼は何も派手なことはしてない。ただ恐れおののいて戸惑って、引きずり回されて、でも最後の力を振り絞って信念を貫いて。それがあのシーンに集約されていて、泣けて仕方ありませんでした。最初からこのシーンに来るとわかってたのに。ブランコに乗って座ってるだけなのに。市村正親をこんな使い方するなんて。宮本亜門恐るべしです。黒澤映画のエッセンスが抽出されたこの静的な感動は、紛れもなく日本オリジナルだと思いました。
今までブロードウェイを3度訪問して「このクオリティは日本では体験できない」と信じていましたが、思いのほか近くで宝を発見した思いです。一部マイクにノイズが入ったり、オフマイクになって歌詞が聞き取り辛いところもありましたが、でもこれは世界に行くんじゃないかな、と思いました。実際、世界進出を意識しているため、今回は東京だけで、地方公演は行われないとか。
東京での初演を初日に観たのは貴重だったと思える日が来るかもしれない。そんなことを感じた1日でした。
マシュー・ボーンの「シンデレラ」日本公演(東急シアターオーブ)
観劇日:2018年10月3日
劇場:東急シアター・オーブ
上演時間:2時間半(2回休憩有)
おとぎ話というより、「1人の男と1人の女の恋物語」になっていました。そしてそれがとても良かった。風邪気味だったのですが、観終わった後は元気に。いい舞台は免疫力も上げるようです。
【あらすじ】第二次大戦中のロンドン。シンデレラは父の後妻とその息子・娘達に虐げられていた。ある日彼女の家に負傷した空軍パイロットのハリーが訪れ、2人は恋に落ちる。天使の助けでカフェ・ド・パリでのダンスパーティーを楽しむ2人。しかしロンドン大空襲のため離れ離れになり…。(あらすじ終わり)
ロンドン在住の方のブログでも評判が良く、メインキャストが昨年のロンドンリバイバル上演とほぼ同じだったので、チケット購入。
旧ソ連の作曲家セルゲイ・プロコフィエフのバレエ音楽にマシュー・ボーンが振り付け・演出したもので、初演は1997年。
【以下、ネタバレあり感想】
パイロット役のアンドリュー・モナガンは、素人目にも凄い技術なのだとわかりました。第1幕にシンデレラがマネキンと踊るシーンがあって、途中で服を着たトルソーからモナガンにすり替わるのですが、見事にマネキンっぽい動き。その他の場面でも絵になるパイロットでした。
第2幕のダンスパーティーのシーンは、シンデレラ(アシュリー・ショー)が、それまでのグレーの服とは打って変わって、キラキラ衣装でしかもモテモテ。いっぺんに5人の男性と踊ったりするのが楽しかったです。最初はおずおずとした雰囲気だった彼女が、だんだん自信がついて堂々としてきたところでパイロットと踊ります。
その後、部屋着姿で2人で踊るシーンもあるのですが、素朴というか生々しいというか、個人的にはダンスパーティーのシーンより、こちらの方がグッときました。
継母は、最終的にはひどい人なのですが、華があってチャーミングでした。パイロットに言い寄り、2人で踊るシーンもあります。彼の方は気もそぞろで、投げやりなダンスなのが面白い。
銀髪の天使リアム・ムーア(初代ビリー・エリオット)は、がっちりとした体格でした。どこかのレビューで「天使の役目がよくわからない」とあった通り、味方なの?敵なの?と混乱する面も。わかりやすくカボチャの馬車を出したりはしません。でも、さり気なく手を繋ぐように導いたりするのが良いです。ラストでは、このシンデレラという物語を読んでいる(と思われる)1人の女性の肩に、天使がそっと手を置きます。舞台を観ている観客にも天使の祝福を、という意味かなと思いました。
カーテンコールでは写真撮影可でした。あまり上手く撮れませんでしたが。
東急シアター・オーブでの上演は10月14日(日)まで。11月3日からは、恵比寿ガーデンシネマでロンドン公演の上映もあります。他の映画館でも順次公開されるようです。病院のシーンなど少しわかりにくいところもあったので、映画館で復習してみたい気もします。
白鳥の湖も来年新演出で来日するそうで、こちらも楽しみです。
ダマスカス入城から100年:アラビアのロレンス
完全版の2枚組DVDを2日に分けて鑑賞しました。公開の1962年から26年後に20分の未公開シーンが追加された再編集版です。観てから気づいたのですが、今年はダマスカス入城100周年なんですね(1918年10月1日)。
原作は実在のイギリス軍人で考古学者トーマス・エドワード・ロレンスの「知恵の七柱」。
- 作者: T.E.ロレンス,ジェレミーウィルソン,Jeremy Wilson,T.E. Lawrence,田隅恒生
- 出版社/メーカー: 平凡社
- 発売日: 2008/08/01
- メディア: 単行本
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【あらすじ】第一次大戦中のエジプト、カイロ。イギリス陸軍少尉ロレンスは、アラブ人を支援してオスマン帝国を攻撃する任務を命じられる(当時中東を支配していたオスマン帝国は、イギリスの敵国ドイツと同盟を結んでいた)。ロレンスはアラブ反乱を率いるハーシム家の王子ファイサルの居場所を探しあて、彼にオスマン帝国の補給港アカバを攻め落とすことを提案するが…。(あらすじ終わり)
現在のパレスチナ問題の遠因となったイギリスの三枚舌外交。その中で苦悩するロレンスの姿が描かれています。イギリスは、ファイサルの父フサインとアラブ人の国家建設を約束する「フサイン・マクマホン協定」を結んでいました。この協定に沿ってロレンスはアラブ反乱を支援するわけですが、一方でイギリスは英仏露でオスマン帝国の領土を分断する「サイクス・ピコ協定」を定め、さらにユダヤ人の国家建設を認める「バルフォア宣言」も出していたのです。
映画の中で、アラブの独立のために軍を率いて戦うロレンスは、アラブ人達に首長として尊敬され、絶大な人気を誇るようになります。でもピーター・オトゥール演じるロレンスは、常に1人違う次元にいる殿上人のような、何かを静かに悲しんでいるような雰囲気を醸し出していました。あまりに老成した表情なので、「27歳くらいだ」という台詞に違和感を感じたのですが、実際撮影時は20代だったのですね。ロレンスのアラブ統一国家建設の夢がもろくも崩れ去る様子は、胸が痛みます。(彼は「天地創造」で、ソドムとゴモラの滅亡を伝える天使の役を演じていますが、そこでも何とも言えない悲しみをたたえた目をしています)
ロレンスの片腕となるハリト族の首長アリは、オマル・シャリーフ。オマル本人は、後年あるインタビューで「自分はラクダに乗って座ってただけだ」と答えたこともあったそうですが、いやいやどうしてかっこいいです。砂漠の蜃気楼からの登場シーン、ラクダからの降り方、立ち姿、どれも美しい。彼とピーター・オトゥールの2ショットがとても画面映えして、アカデミー主演男優賞・助演男優賞も納得。2人は生涯とても仲の良い友人同士だったそうです。
もう一つ特筆すべきは、特撮を使わずに撮影された砂漠の映像です。照りつける太陽や砂嵐など、CGではない本物の風景が切り取られていることで、その厳しさ、恐ろしさが迫力をもって伝わってきます。何かの本で「砂漠のリーダーには決断力が求められる。良くても悪くても何も決断しないよりはいい。ぐずぐずしていると死んでしまうからだ」と書いてありましたが、撮影も相当過酷であっただろうと思います。
3時間半の長さにひるんで、観るのを先延ばしにしてきましたが、見始めるとあっという間でした。あんな環境でこんな超大作映画を作り切ってしまうデヴィッド・リーン監督は、凡人には計り知れない特異な人だと改めて思いました。
アラビアのロレンス [完全版]デラックス・コレクターズ・エデション (2枚組) [DVD]
- 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
- 発売日: 2010/02/03
- メディア: DVD
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漫画もあるんですね。
クリスティーナ・アギレラの体育会系セクシー:バーレスク
5月に6年ぶりの新作アルバムを発表したクリスティーナ・アギレラ。彼女の映画デビュー作が、この「バーレスク」です。
【あらすじ】アイオワ州から歌手を目指してLAにやってきたアリ。たまたま入ったバーレスク・クラブでのショーに魅入られ、オーナーのテスに自分を売り込む。ところがクラブは借金を抱えて閉店の危機にさらされていた…。(あらすじ終わり)
クリスティーナ・アギレラのプロモーションビデオみたいな映画です。アイオワのレストランで歌うシーンから迫力満点(こんなに上手なら地元でも有名になりそうなのに)。筋はあってないようなもので、とにかく華やかでセクシーなショーシーンを楽しむための作品と言えるでしょう。アギレラはこの映画のためにダンスを練習したそうですが、色っぽくかつ逞しく、頼もしさすら感じるパフォーマンスでした。あんなに首を激しく動かして、むちうちにならないかな、とちょっと心配になりましたが。
クラブのオーナー、テスを演じるシェールは「ガラスの仮面」の月影先生風。最近では「マンマミーア・ヒアウィーゴー」でも話題になりましたね。途中で唐突な感じがするソロもありますが、さすがの貫禄です。クレジットでは彼女がトップに表示されます。11月には伝記的ミュージカル「The Cher Show」もブロードウェイで上演されるようです。
テスの良き理解者でゲイの衣装係は、「プラダを着た悪魔」に似たようなデザイナーが出ていたなと思ったら、同じスタンリー・トゥッチでした。テスが彼に「何か嘘をついて」と言うシーンがとても好きです。その他、アリに宿を貸す気のいいバーテンダーをキャム・ギガンデットが好演。
バーレスク・クラブはLAにいくつかあるそうで、このお店のHPに載っている動画を見ると、かなり映画に近い雰囲気です。
日本にも、この映画を意識していると思われるバーレスク東京なるお店があります。3500円〜楽しめて、女性の一人客もいるとか。ちょっと覗いてみたい。
「お熱いのがお好き」2020年新作ミュージカルに
「お熱いのがお好き」(Some Like It Hot)が2020年、新作ミュージカルになってブロードウェイにやってきます。音楽担当は「メリー・ポピンズ・リターンズ」のシャイマン&ウィットマン。
オリジナルは言わずと知れたビリー・ワイルダー脚本・監督の映画(1959年)。マリリン演じる旅回りの歌手シュガーと、マフィアから身を守るために女装した2人のミュージシャン(ジャック・レモン、トニー・カーティス)の間で繰り広げられるロマコメです。
撮影の裏側では色々とトラブルもあったようですが、この映画のマリリンは本当にキュート。ブプッピドゥーのスキャットも印象的な「I Wanna be Loved by You」が歌われた作品でもあります。
舞台化は1972年の「Sugar」が最初で、シュガー役はニール・サイモンの奥さんエレーヌ・ジョイスが務めました。1999年には「紳士は金髪がお好き」「ファニー・ガール」のジューリー・スタインが作曲を担当した舞台「Some Like It Hot」がイリノイ州で上演されましたが、一月足らずで打ち切られたようです。
今回の新作については今年の5月以来、追加情報が出ていない様子。この「#Metoo」の時代には、「おつむが弱いけど気立てが良くてセクシー」なシュガーに対しての風当たりは強そうなので、何か現代ならではの女性像にしなければならない難しさもあるかもしれませんが、ぜひ制作が滞りなく進んでほしいものです。
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